【マーケティング】カーボンクレジットの世界と日本の取組と事例

その他

近年、気候変動問題が深刻化しており、その対策として世界中で各企業がさまざまな取り組みを行っています。その一つがボランタリーカーボンクレジットです。

これは、企業が自らの温室効果ガス排出量を削減する手段として使用するもので、実際にCO2を削減した分に対して発行される「クレジット」です。このクレジットは市場で売買され、他の企業や団体が購入して自らの排出量を補填することができます。

一方で、日本国内では「Jクレジット」という制度もありますが、これは主に国内での排出削減や再生可能エネルギーの導入に対するクレジットです。ボランタリーカーボンクレジットとは異なり、国際的な取引には適用されません。この違いについては後のセクションで詳しく解説します。

この記事では、経営層、新規ビジネス担当者、そしてCSRやSDGsの推進担当者向けに、認証機関の重要性、選び方、主要な認証機関、そして社会での事例について詳しく解説します。

認証機関の選び方一つで、企業のカーボンフットプリント削減の効果は大きく変わることもあります。また、選んだ認証機関によっては、その後のビジネス展開やCSR活動、さらには企業価値にも大きな影響を与える可能性があります。

本記事を通じて、認証機関の選び方が企業戦略に与える影響や、社会全体での重要性について理解を深めていただければ幸いです。

温室効果ガスはGreenHouse Gas、略してGHG。

二酸化炭素が76%、メタンが16%
ナム兄さん、メタン色で覚えました。

 

 

認証機関の役割と選び方

認証機関の役割

認証機関はボランタリーカーボンクレジットの市場で非常に重要な役割を果たします。
主な業務は、カーボンクレジットの発行に先立って、その温室効果ガスの削減量やプロジェクトの信頼性を評価・審査することです。

具体的には、CO2削減プロジェクトが設定した目標に対してどれだけ効果があるのか、その数値が信頼性を持って測定されているか等を評価します。

選び方

認証機関選びは複雑なプロセスであり、多くの要素が考慮されるべきです。一般的なポイントとしては以下のようなものがあります。

  • 実績と信頼性: その認証機関が過去にどれだけのプロジェクトを成功させてきたか。
  • 透明性: 認証プロセスが公開されているか。
  • スケーラビリティ: 小規模から大規模まで、様々なプロジェクトに対応できるか。

 

認証機関の歴史と成立の経緯

世界での経緯

20世紀後半から21世紀にかけて、気候変動問題が急速に国際的な焦点となりました。

1997年には京都議定書が採択され、国際的な温室ガス削減の取り組みが始まりました。さらに進展を見せたのが、2005年にスタートした欧州連合(EU)の排出量取引制度(EU ETS)です。この制度は、企業に対して温室ガス排出量を制限する枠組みを設け、超過した場合にはペナルティが科されるというものでした。

こういった背景から、第三者による公正な評価が必要とされ、認証機関の出現と成長が促されました。

認証機関の役割の変遷の最初は、国や地域ごとに独自の基準やシステムが存在していました。

しかし、次第に国際的な基準が求められるようになり、多数の認証機関がVCS(Verified Carbon Standard)やGold Standardといった国際的な基準に従うようになりました。

これらの基準は、透明性、信頼性、効果測定の精度などが厳格に評価されるため、認証機関はその品質を維持・向上させる必要があります。

 

京都議定書のその後

最大の温室効果ガス排出国であったアメリカのブッシュ大統領がが2001年に経済的な負担や中国など当時途上国の削減目標が定められておらず不公平だという理由で離脱しました。選挙対策など様々な思惑があったと思われます。流れはパリ協定に引き継がれていますが主な動きをまとめました。

出来事
1997 京都議定書採択:国際条約が採択され、温室効果ガス削減を目的とする
2001 アメリカの京都議定書からの離脱宣言
2005 京都議定書発効:90カ国以上が批准
2007 バリ行動計画採択:ポスト京都の枠組みに向けた議論開始
2009 コペンハーゲン合意:2度の温暖化防止を目標とする合意がなされる
2012 ドーハ改正:京都議定書の改正が行われ、第二約束期間が設定
2015 パリ協定採択:国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)で全国に温室効果ガス削減が義務付けられる
2017 アメリカのパリ協定からの離脱宣言
2019 国連気候行動サミット:より野心的な削減目標の表明
2020 パリ協定施行:2020年から施行開始
2021 アメリカのパリ協定復帰宣言
2022 COP26:1.5度目標維持に向けた合意がグラスゴーで行われる
2023 各国からのNDC更新:より野心的な温室効果ガス削減目標が提出される

この表は、温室効果ガス削減に関する国際的な動きの大まかな流れを追うもので、実際にはこれらの出来事の間にも多くの技術進歩や、国際的な協議が行われています。

日本での経緯

日本では、2005年の京都議定書の発効が大きな転機でした。

国が定めた排出枠内で、各企業や地方公共団体が温室ガス削減に努める形となり、この枠を超えるとペナルティが科せられる仕組みが採用されました。

この時点で、日本国内における認証機関の必要性が高まり、数々の認証機関が設立されました。

特に注目されたのが「Jクレジット」制度です。この制度は、国内での温室ガス削減や吸収を促進し、その成果を証明する仕組みとして開始されました。

Jクレジットは主に国内で有効であり、国際的な取引は行われていませんが、多くの企業が社会的責任(CSR)を果たす手段としてこの制度を利用しています。

日本企業の現状はどうしても環境活動よりも経済活動を重視する人が多く、CO2削減につながる取り組みの優先順位が低いものでした。

カーボンクレジットは環境活動と経済活動をつなげる大きな懸け橋になると期待されています。
クレジットにより環境活動が金銭的な価値をうむからです。今までは植林しても金にならなかったが、カーボンクレジットが生み出せるのならば植林をしてCO2削減するというインセンティブが働くようになりました。

社会での事例

日本国内で注目された事例として、トヨタ自動車が、Jクレジットを活用して自社の温室ガス排出量を30%削減したケースがあります。トヨタ自動車は認証機関と綿密に連携を取り、取り組みの透明性と信頼性を確保しました。その結果、企業価値は大幅に向上し、投資家からも高い評価を受けています。

 

主要な認証機関

Verra (VCS)

Verraは、特にVoluntary Carbon Standard(VCS)で知られており、多くの企業がVCSを通じてカーボンクレジットを取得しています。Verraの特徴は、高い信頼性と透明性を持つ点で特にテクノロジー企業によく利用され、全体の70%はこの認証が利用されています。

各プロジェクトは厳密な審査を経て認証され、その結果は公開されます。

Verified Carbon Standard(VCS)での販売開始 - green carbon

事例

MicrosoftやGoogleなど、テクノロジー企業が積極的にVerra認証のカーボンクレジットを購入しています。これにより、企業は持続可能な事業展開を強化し、そのCSR活動に新たな価値をもたらしています。

Gold Standard

Gold Standardは、社会・環境面での持続可能性に注力しています。この認証を持つプロジェクトは、温室ガスの削減だけでなく、地域社会にもポジティブな影響を与えることが期待されます。

社会・環境面で強い影響力を持つため、消費財企業が主に利用しています。

ゴールドスタンダード |WWFジャパン

事例

ユニリーバやネスレなどの消費財企業がGold Standard認証を活用しています。これにより、サプライチェーン全体での持続可能性を確保し、消費者からの信頼を高めています。

ユニリーバ リプトン

American Carbon Registry

American Carbon Registry(ACR)はNPO法人であるWinrock Internationalが1996年に設立した世界で最初の民間のカーボンクレジットの認証基準・制度です。
アメリカ国内での温室ガス削減を特に目的としています。独自の基準と審査プロセスを有し、利用しやすい認証機関です。

事例

特にアメリカのエネルギーセクターで、エクソンモービルやシェブロン(石油会社)などがACRを利用しています。彼らはこの認証を通じて、環境規制への対応と社会的評価の向上を図っています。

日本の主要な認証機関

Jクレジット

日本独自の認証制度であり、国内での温室ガス削減や吸収、再生可能エネルギー導入量の増加などを評価・認証する仕組みです。国内企業によく使用され、政府が推進するSDGs達成に貢献しています。

事例

日本の大手企業、特にトヨタ自動車や日本電気(NEC)が、社会責任(CSR)活動の一環としてJクレジットを活用しています。

その他:カーボン・オフセット第三者認証プログラムにおける認証機関

日本国内のカーボンオフセットプロジェクト認証を行う機関であり、国内企業が国内でCO2削減を行う場合に利用されます。カーボンオフセット協会のHPに記載があります。

カーボンオフセット協会

【認証機関の例】

一般社団法人 日本能率協会 地球温暖化対策センター(JMACC)

ソコテック・サーティフィケーション・ジャパン株式会社

一般財団法人 日本品質保証機構

一般社団法人 日本海事協会

事例

トッパン・フォームズ、USEN、セイコーエプソンなどが原材料調達や流通、排出など多岐にわたる用途のオフセットで利用しています。

ISO 14064

国際的な認証基準であり、日本でも広く採用されています。温室ガスの発行量・削減量を計測し、それを第三者が確認するプロセスを規定しています。

社会での事例

ソニーやパナソニックなど、多くの製造業がこの認証を取得して、国際的な信頼を築いています。

GX-ETS

GXリーグというグリーントランスフォーメーション(GX)で経済社会システムの変革を目指し炭素削減目標を掲げる企業群(約700社)が行う排出量取引。経済産業省が主導しで2026年から本格稼働を目指す。

GXリーグ

 

認証プロセス

プロジェクトの申請から認証までの手続き

カーボンクレジットの認証プロセスは、一般的に以下のステップで行われます。

  1. プロジェクト計画: 温室ガス削減のためのプロジェクトを企画し、その詳細を文書化します。
  2. 第三者評価: 認証機関に登録された第三者がプロジェクトの有効性を評価します。
  3. 認証: 第三者評価が成功した場合、認証機関がカーボンクレジットを発行します。
  4. モニタリング: プロジェクトが進行する中で、定期的にその成果を報告し、評価を受けます。

認証機関の選び方

  • 企業目的
    • Gold Standard: 社会的な側面も評価されるため、企業がCSRやSDGsに積極的な場合に適しています。この認証は、温室ガス削減だけでなく、地域社会への貢献も評価されます。
  • 業界特性
    • Verra (VCS): 高い透明性と信頼性が求められるIT業界に適しています。多くのテクノロジー企業がデータセンターなどで大量のエネルギーを消費するため、その削減が厳密に評価されます。
    • ISO 14064: 国際的に事業を展開する製造業に適しています。この認証は国際基準であり、多国籍企業が一貫した基準でCO2削減を進められます。
  • コストと時間
    • 各認証機関には費用と所要時間が異なります。例えば、American Carbon Registryはアメリカ国内に特化しているため、地元企業にとっては手続きが早く、費用も比較的低い場合があります。

 

社会での実例

カーボンクレジットの認証機関は、企業によって多様な形で活用されています。以下にいくつかの成功事例とその影響をご紹介します。

1. Google(Verraによる認証)

Googleは、自社のデータセンターのエネルギー効率を高めるプロジェクトをVerraによって認証しています。この認証により、透明性と信頼性が高まり、環境へのコミットメントも明示できています。

2. Unilever(Gold Standardによる認証)

消費財大手のUnileverは、持続可能な農業プロジェクトをGold Standardで認証。このような認証は、消費者に対するブランドイメージを高め、製品の価値を向上させています。

3. Tesla(American Carbon Registryによる認証)

Teslaは、電動車の普及によるCO2削減量をAmerican Carbon Registryで認証しています。この認証は、アメリカ国内での事業展開に特に有利であり、補助金や税制優遇も受けやすいです。

4. 東京ガス(Jクレジットによる認証)

国内では、東京ガスがJクレジットを活用しています。メタンガスの削減プロジェクトが認証され、その成果は国内外で高く評価されています。

影響とその後の展開

これらの事例から見て取れるのは、認証機関の選び方一つで、その企業が目指す目標や、受ける社会的・経済的影響が大きく変わることです。特に、認証によって得られる補助金や税制優遇、消費者の信頼などは、ビジネス戦略において無視できない要素となっています。

実際に有名な事例としてはインドネシアのカティンガンプロジェクトという大規模な森林保全のプロジェクトではVCSが削減効果をはるかに超過した規模でクレジットを発行しているとの疑惑が生まれ、森林クレジットの購入者が風評被害を受けることとなりました。

今後の展望

カーボンクレジット認証機関は今後、どのように進化していくのでしょうか。以下にいくつかの方向性と新技術の導入について触れます。

1. デジタル化とブロックチェーン

認証機関は、ますますデジタル化が進む中で、ブロックチェーンのような新技術を導入して透明性と効率を向上させる動きがあります。これにより、より多くの企業やプロジェクトが認証を受けやすくなります。

2. 環境への貢献の拡大

SDGsなどの環境目標に対する認知が高まる中で、認証機関もそれに応じて多角的な評価基準を設定する可能性があります。これにより、より多くの企業が環境貢献できるプロジェクトに参加するでしょう。

3. グローバル基準の統一

多くの国々が独自の認証機関を持っていますが、今後は国際的な基準が一層強化される可能性が高いと考えられます。これにより、企業はグローバルに展開する際の障壁が低くなるでしょう。

4. リアルタイム監視とAI

将来的には、IoTデバイスやAIを活用してリアルタイムでの環境貢献度を測定するシステムが導入される可能性もあります。これが実現すれば、企業はより精確かつ効率的に自社の環境パフォーマンスを改善できるでしょう。複数の企業が温室効果ガスの可視化ツールを展開してきています。

まとめ

カーボンクレジットの認証機関選びは、企業が社会的・環境的にどのような影響を与えるか、そしてそれがビジネス戦略にどう結びつくかを決定する重要なステップです。正確な認証機関の選定によって、企業は信頼性を高め、持続可能なビジネスモデルを築くことができます。

CSRやSDGsとの連携

今や、CSR(企業の社会的責任)やSDGs(持続可能な開発目標)は、企業経営において無視できないテーマとなっています。認証機関を通じて環境貢献を証明することで、これらの目標達成にも寄与する形が整います。

企業に与える影響

認証機関を選ぶ過程は、その企業がどのような価値を重視するのか、どのような戦略を採るのかを明確にします。それが、投資家や顧客、さらには従業員に対するメッセージとなり、企業価値を高める可能性があります。

最後に

カーボンクレジットの認証機関選びは、単に「環境に良いことをしている」という証明以上の意味を持ちます。それは企業がどれだけ社会とつながり、将来にわたって持続可能な成長を遂げられるかの指標でもあります。

 

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