【企業経営】経営デザインシートとは?具体的な作成手順と事例を会話形式で解説

マーケティング

経営デザインシート

1. はじめに

経営デザインシートとは:

けん先生、今日は相談があってお呼びしました。最近、デジタル化の波がどんどん押し寄せてきて、当社の印刷事業も将来どうなるのかと不安を感じています。

「鈴木社長、お悩みのこと、よくわかります。デジタル化の影響は多くの業界で感じられています。でも、大丈夫です。今日は経営デザインシートというツールを使って、将来のビジョンを明確にし、具体的な戦略を立てる方法をご紹介します。」

鈴木社長
鈴木社長

「経営デザインシートですか?それは一体何ですか?」

一言で言うと、将来を構想するための思考補助ツールです。経営デザインシートは、企業のビジョンや戦略を一枚のシートにまとめ、企業の現状を把握し、将来の目標を設定し、それに向けた具体的なアクションプランを策定するために使います。」

鈴木社長
鈴木社長

「なるほど、それならば現状の問題点や将来の目標を明確にできそうですね。」

その通りです。経営デザインシートを活用すれば、具体的なビジョンを持ち、企業全体の方向性が明確になり、組織全体で共有することができるようになります。これにより、目標に向かって一丸となって進むことができます。特徴を箇条書きにしますね。

経営デザインシートの特徴
1枚で全体を俯瞰できる
時間軸を意識できる 「これまで」と「これから」
想いを記載できる 「自社の目的・特徴」、「事業概要」、「価値」など
大切な部分の明確化 欄が限られているので、大切なことしか書けない
関係性の把握 「資源」と「ビジネスモデル」と「価値」の関係性を意識しやすくなる
鈴木社長
鈴木社長

それは素晴らしいですね。でも、どうやって作成するのか、具体的な手順が知りたいです。

それでは、次の章で経営デザインシートの概要と具体的な作成手順について詳しく説明しましょう。心配しないでください、難しいことではありませんよ。

この記事の目的

この記事の目的は、経営デザインシートの基本概念とその重要性を理解し、具体的な作成手順を通じて、自社の経営戦略を明確にする手助けをすることです。デジタル化の進展に伴う不安を解消し、未来に向けた希望を持つための一助となることを目指します。

2. 経営デザインシートの概要

経営デザインシートには、主にA~Dの4つのパートで構成されます。

環境変化に耐え抜き持続的成長をするために、自社や事業の
(A)自社の想い 信念 価値観  など「存在意義」を意識した上で、
(B)これまでに行ってきた事業のこと 「これまで」を把握し、
(C)これからの目指す将来像    長期的な視点で「これから」の在りたい姿を構想する。
(D)将来のために今から何をすべきか  在りたい姿にむけ「何をすべきか」を策定する。

(A)社会・市場へ伝えたい自社・事業の想いイメージ

実際のシートを見てみましょう。まずは(A)の部分です。
シートには「全社用」「事業用」「事業が1つの企業用」の3種類があります。鈴木社長は印刷事業のみなので事業が1つの企業用が書きやすいと思います。

このAの部分では企業理念重視する価値観・ありたい姿、自社が解決しようとする社会的課題、企業文化・企業風土、キャッチフレーズ等を記載します。

 

鈴木社長
鈴木社長

企業理念ですか・・。先代が作成したものをずっと使っていたので深く考えていなかったのですがどのような点に気を付ければいいでしょうか。

時代の変化に合わせて経営理念を新たに作成したり制定しなおすことは珍しくありません。印刷業ではTOPPAN ホールディングスも2023年に社名変更と共にPurpose(存在意義)を『Breathing life into culture, with technology and heart./人を想う感性と心に響く技術で、多様な文化が息づく世界に。』に変更しました。

トヨタ自動車も時代の変化に合わせて新理念「幸せの量産」を打ち出しています。

 

 

鈴木社長
鈴木社長

両社とも”印刷”や”自動車”などよりも大きな枠組みで制定しているんですね。

そうなんです。マーケティングマイオピア(近視眼)という言葉があるのですが、自分の会社は〇〇業と決めつけてしまうと変化に柔軟に対応できなくなるケースがあります。本質的な価値を考えるようにしましょう。

マーケティングマイオピアの有名な事例としてはアメリカで鉄道会社が自動車会社に取って代わられた例があります。鉄道業ではなく自社を総合的な輸送業と定義していたら違う未来だったとのではないかと言われています。
印刷業ではゼロックスが自社のコピー機や紙やトナーが不要になってしまうと考え、せっかく社内で開発されたpdfの技術を推進していくことを却下してしまったという事例があります。結局pdf開発者たちは独立して「Adobe」を立ち上げました。24年8月時点でゼロックスの時価総額は12億ドル、Adobeの時価総額は2,300億ドルです。
鈴木社長
鈴木社長

「なるほど、あるべき姿をしっかりと考えてから現状とのギャップを埋めるための計画を考えていくんですね。それならば、社員全員が同じ方向を向いて進むことができそうです。」

「その通りです。経営デザインシートは、単なる計画書ではなく、企業全体の戦略を明確にし、共有するための強力なツールです。そして目的から逆算して行動をするバックキャスト思考により、中小企業でもしっかりとした戦略を持ち、将来に向けて安心して進むことができます。」

鈴木社長
鈴木社長

それは本当に心強いですね。進むべき方向性が分かると社員たちの判断基準にもなりそうです。

そうですね。それでは次のパートでは(B)これまでの価値を生み出す仕組みを見てみましょう


(B)これまでの価値を生み出すしくみ

まずはシートを見てみましょう!

鈴木社長
鈴木社長

項目が多いですね・・。どのように進めていけばよいでしょうか。

書き出すポイントはこちらです

これまでの価値を生み出す仕組みのポイント
資源:どのような強みを持っているか(ヒト・モノ・カネ・情報・知財・外部調達)
ビジネスモデル:資源(=強み)をどのように価値へ変換してきたか
価値:どのような顧客の、どんなニーズやウォンツに対応してきたか?
社会にどんな結果やインパクトをもたらしてきたか?

 

鈴木社長
鈴木社長

我が社は中小企業だから、特に”強み”と言えるような資源は持ってないんですよ。特許なども特にないですし。

 

強みというものは自分にとっては当たり前のに出来ていることなので、意外と気が付きにくいものなのです。例えば、こうして鈴木社長が私に相談に来てくれたのもの積極的に外部の意見を取りいれる社風ともいう強みと考えることが出来ます。社員のノウハウもそれを目的に顧客から相談が来ているようなら価値を生み出す資源の一つです。

 

鈴木社長
鈴木社長

なるほど。たしかに安く仕入れさせてくれる取引先や地元に詳しい人がいるということでも強みになりえますね。ビジネスモデルのパートはどのように考えたらよいのでしょうか。

 

ビジネスモデルのパートはこれまでのビジネスモデルで、資源をどのように組み合わせて、価値に変換してきたかを書きます。またその過程で、「知財(技術・意匠・ブランド)や販売方法・製造方法・データ・コンテンツ・企業文化などが果たしてきた役割」についても考えます。ビジネスモデルにおけるパートナーとの協力関係、提供先にアクセスする方法(チャンネル等)について記載します。

鈴木社長
鈴木社長

中小企業とはいえ印刷業に限ってもいろいろなサービスをしているのでどこから書けばいいのか。シートを埋めるのも大変ですね。

まずは埋められるところから埋めていきましょう!シートを埋めること自体は目的ではありません。「これから」を構想し実現するためのステップです。記入することは「あるべき姿の実現」のために今後も活用できるような資源やビジネスモデルを中心に記載するとまとまりやすいと思います。

鈴木社長
鈴木社長

ありがとうございます!次はいよいよ(C)のパートですね。

(C)これからの目指す将来像  

さあ、いよいよ(C)パートです。このパートでは長期的な視点で「これから」の在りたい姿を構想します。ポイントは(A)パートの存在意義を踏まえたうえでありたい姿を考えることです。(B)の延長線で考えてはいけませんので注意して下さい。

鈴木社長
鈴木社長

え?これまでの価値を生み出す仕組みの(B)を考慮しないのですか?

はい。このシートのポイントは未来から逆算するバックキャスト思考になります。理想の姿を描いてから現在の価値を生み出す仕組みとのギャップを考えることが重要です。’在りたい姿’には、どのようなビジネスモデルがあればよいか、そのために経営資源として何が必要かを一緒に考えるようにしましょう。

内閣府のHPには下記のように分かりやすく記載されています。

漠然と目標に対して進むのではなく、ありたい姿とのギャップを突き詰めていくと取るべき行動が浮き出てきます。それでは最後のDの移行戦略の部分を見ていきましょう。

(D)将来のために今から何をすべきか 移行戦略

在りたい姿にむけ「何をすべきか」を策定する。

将来のために何をすべきか、「移行戦略」で入力すべき項目は4つになります。

①外部環境
・自社/事業を取り巻く外部環境(世の中の流れ)は何か
②移行のための課題
・これからの価値を生み出す仕組みの実現において、障壁となるポイントはどこか
・その障壁をなくすには何があればよいか
➂必要な資源
・「これからの資源」で新たに書き出されたもの、それら資源を得るために一時的に必要になる資源を書き出す。
・書き出す際に量的不足過失的不足かを考える
④解決策
・「これまでの価値を生み出す仕組み」と「これからの価値を生み出す仕組み」のギャップ埋めるために必要な活動は何か
・「移行のための課題」の解決、「必要な資源の獲得」のために、必要な活動は何か。

 

鈴木社長
鈴木社長

「なるほど。自社を取り巻く外部環境ですね。印刷業だとペーパーレス化や環境規制の強化でしょうか。」

 

そうですね。あとは、新しい印刷技術や労働力不足など、これらは脅威にもなり得るし、逆に機会にもなり得ます。これらのポイントを押さえることで、外部環境をしっかりと分析できますよ。

鈴木社長
鈴木社長

外部環境が明確になったら、次に移行のための課題を考えるんですよね?

その通りです。移行戦略を進めるにあたり、これからの価値を生み出す仕組みを実現する際に、どのような障壁があるのかを考える必要があります。たとえば、ペーパーレス化が進む中で、紙を使用しない新しい印刷技術への対応が十分に進んでいない場合、その技術に適応するためのコストやノウハウの不足が大きな障壁となります。

鈴木社長
鈴木社長

確かに、それは大きな課題ですね。他にどんな障壁が考えられますか?

例えば、デジタル化に対応するための設備投資の不足や、社員の技術スキルが追いついていない場合などです。また、これまでの業務プロセスをデジタル化に合わせて見直すことが難しいといった点も障壁になります。その障壁を取り除くためには、何が必要かを具体的に考えましょう。例えば、新しい技術導入のための資金や、社員の再教育の機会が挙げられます。

鈴木社長
鈴木社長

なるほど。障壁を取り除くために、必要な資源を書き出すんですね。

そうです。ここで大切なのは、『これからの資源』と『これまでの資源』を区別して考えることです。これから必要になる資源が何かを明確にし、それを得るために一時的に必要な資源もリストアップします。また、その資源が量的に不足しているのか、それとも質的に不足しているのかを考えます。

鈴木社長

なるほど。例えば、新しいデジタル印刷機を導入するための資金と、それを運用するための技術者が必要になる、といった感じでしょうか。

そうです。そして、最後に『解決策』を考えます。これまでの価値を生み出す仕組みと、これからの価値を生み出す仕組みとの間にあるギャップを埋めるために、どのような活動が必要かを考えます。また、移行のための課題を解決し、必要な資源を確保するために、具体的に何をするべきかを明確にすることが重要です。

 

鈴木社長
鈴木社長

最初におっしゃっていたバックキャスト思考ですね。具体的にはどんな活動が必要になるでしょうか。

例えば、繰り返しになりますが新しい印刷技術の導入とそれに伴う社員のトレーニング、あとはデジタルマーケティングへのシフト、さらに外部の専門家との連携などが考えられます。これにより、移行戦略を効果的に進めるための具体的なアクションプランが形成されます。

鈴木社長
鈴木社長

なるほど。こうして具体的なアクションプランを立てることで、将来に向けた移行がスムーズに進むんですね。

その通りです。移行戦略をしっかりと計画し、実行することで、未来の不確実性に備え、持続可能な経営を実現することができます。鈴木社長、ぜひこのプロセスを活用して、会社の未来を明るいものにしていきましょう。

3. 経営デザインシートのメリットと課題

鈴木社長
鈴木社長

経営デザインシートの具体的な事例を見て、自社でも活用できる気がしてきました。メリットとデメリットをまとめていただけますか?

「経営デザインシートには多くのメリットがありますが、一方でいくつかの課題も存在します。それぞれを見ていきましょう。」

経営デザインシートのメリット

  1. 戦略の一貫性の確保:
    • 経営デザインシートを使うことで、企業全体の戦略が一貫して実行されるようになります。これにより、全社員が同じ目標に向かって一丸となって進むことができます。
  2. 全社的な目標共有:
    • 経営デザインシートにより、企業のビジョンや目標が明確になるため、全社員がその方向性を理解し、共有することができます。これにより、組織全体の連携が強化されます。
  3. 効率的なリソース配分:
    • 具体的なアクションプランとKPIを設定することで、必要なリソースを適切に配分し、無駄を省くことができます。これにより、効率的な経営が可能となります。
  4. 進捗の可視化と評価:
    • 定期的にKPIをチェックすることで、目標達成に向けた進捗を可視化し、適宜評価することができます。これにより、迅速な意思決定が可能となります。
鈴木社長
鈴木社長

「確かに、これらのメリットは非常に魅力的ですね。」

課題としては下記のようなことが考えられます。

経営デザインシートの課題

  1. 作成の難易度:
    • 経営デザインシートを初めて作成する際には、適切な分析や計画立案が求められるため、難易度が高いと感じることがあります。また、全社員の協力が必要なため、組織内での調整が重要です。
  2. 継続的な見直しの必要性:
    • 経営環境や市場状況は常に変化するため、経営デザインシートも定期的に見直し、修正する必要があります。これにより、最新の状況に適応した戦略を維持することが求められます。
  3. 全社員の理解と協力:
    • 経営デザインシートを効果的に活用するためには、全社員がその重要性を理解し、協力することが不可欠です。そのためには、社員への教育やコミュニケーションが重要となります。
鈴木社長
鈴木社長

課題もいくつかありますが、それでも経営デザインシートを導入する価値は大いにありますね。

 

「その通りです。課題を理解し、適切に対応することで、経営デザインシートのメリットを最大限に活用することができます。これから一緒に取り組んでいきましょう。」

まとめ

これまでお話ししてきたように、経営デザインシートは企業のビジョンや戦略を明確にし、全社員が一丸となって目標に向かうための強力なツールです。デジタル化の進展による不安を解消し、将来に向けた希望を持つためにも、ぜひ活用してみてください。見て頂きありがとうございました。

経営デザインシートは知的財産権を活用しようという観点ですが、下記の記事も参考にして下さい。



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