【事業再生】西武園ゆうえんち 楽しみ方は? テーマパークの再生事例から考えるコト消費

観光業
西武園ゆうえんちHPより

今回はマーケティングを勉強する者たちの間で、
ひそかに話題になっていると思われる”西武園ゆうえんち”で感じたことを紹介したいと思います。

マーケティングの勉強をしていて、森岡毅さんの本や動画を多数チェックしているうちに
”つぶれそうな遊園地を再生した例”として紹介されていた西武園ゆうえんちを見に行ってみたいと思ったのです。

この記事を読むことで、観光業のプロが西武園ゆうえんちがどう見たかを参考にして、
楽しみ方のバリエーションを増やしてほしいと思います。

 

西武園ゆうえんちの再生を請け負った森岡さんって!?

西武園ゆうえんちの再生を手掛けている森岡毅さんはUSJを再生した人として有名で、

初年度華々しくオープンした1100万人の入場者が800万人台まで減少していたUSJを1460万人までⅤ字回復させた、超有名な凄腕マーケターです。

色々なマーケティング関係の本を出していますが、
シンプルで分かりやすいと思うのは下記の本です。

 

実はこの本自体が、USJを危機から救いハリーポッターエリアを建設するためのプロモーションの一環だというのだから面白いですよね。USJの成功秘話を書くのではなく、成功させるために書いているのです。

 

本のタイトルは森岡さんの他の著作のほうが魅力的だと思うのですが、
本の内容は森岡さんの考え抜く苦悩が分かりやすく表現されており、最初に読む本としてもお勧めできる内容でした。

 

そして、私も観光業に携わってきたので、まんまと森岡さんの狙い通りに、USJの関心が高まってしまったのでした。

 

しかし、、この本にも記載のあるように東京と大阪の間にある「3万円の川」に阻まれてUSJへ行くことは断念し、代わりにお手軽に行ける距離である西武園には行ってみたいという流れで今回は西武園の記事を書くことになりました。。

 

西武園ゆうえんちは森岡さんが独立して創立した「刀」という会社の手がけた事業です。

つぶれそうだった遊園地が「どのように弱みを強みに変えるのか」、「強みを伸ばすのか」、
などの狙いを把握してから訪問すると、楽しみが増えるのではないかと思います。

 

参考として”商圏”の考え方ではライリーの法則というものもあります。

「ある地域から2つの都市A、Bへ流れる購買力の比は、AとBの人口に比例し、その地域からAとBへの距離の2乗に反比例する」

 

 弱みである「古い遊園地」を強みに変える魔法

西武園ゆうえんちは1950年(昭和25年)に開業した伝統のある遊園地ですが、古いこともあり老朽化が目立っていました。

歴史を振り返ると、戦後の時代、鉄道会社の沿線開発の一環で遊園地の建設ラッシュがありました。

1950年 西武園ゆうえんち
1955年 後楽園ゆうえんち
1961年 富士急ハイランド

これらの同世代と比較すると、
後楽園遊園地は東京ドームシティアトラクションズとして都市型レジャー施設として進化し、併設の商業施設LaQuaと連動して会社帰りでも気軽に行けるリフレッシュの場になっています。
アトラクション部分は入場料が無料というのが特徴ですね

富士急ハイランドは絶叫系が充実していることに特徴があり、世界一の施設を複数保有しています。 通算9アトラクション14項目のギネス記録を持つそうです。ドドンパ、ええじゃないか、などが特に有名ですね。私も絶叫系が好きだったので、特に好きな遊園地の1つでした。

 

この2つに比べると昔の西武園ゆうえんちは明らかに特徴が弱く、古くて地味な遊園地という印象でしたね。

リニューアルするにしても抜本的な改装をするほどのお金はなかったそうです。

そこで、西武園ゆうえんちが取った策は、

”古くて地味なもの”を”懐かしさを感じるもの”に演出する

ということでした。

簡単に言うと遊園地全体を「昭和」という古さを懐かしむ場所とすることで、

古くて地味なアトラクション(観覧車など)をレトロでノスタルジックな観覧車に変えてしまったのです。

 

例えるのなら、ボロボロの洋服も1枚ならボロい洋服かもしれませんが、

複数枚を集めて展示する内装をお洒落にすれば、途端にこじゃれた古着屋になる、というようなものでしょうか。
演出や配置次第で価値を演出することも出来ます。

 

具体的な手法として、

西武園ゆうえんちの入り口からすぐのエリアにレトロな商店街を設置してあります。

自分が昭和の世界にいると感じて古さを楽しむ下地を作ることで、昔ながらの観覧車などのアトラクションを見るときにはマイナスのイメージは無く、プラスのイメージに代わるように仕向けたのです。

そのため、何も考えずに商店街を足早に通り抜けて遊具のエリアに突入するような楽しみ方だとおそらく楽しみ切れないと思います。

楽しみ方を知らずに訪問すると評価が低いテーマパークになってしまう、という印象でした。

 

観光産業では地域の人は当たり前のものが、都心部の人や外国人にとっては魅力的だというケースは多数あります。少し見方を変えるだけで、少し磨くだけで光るものはたくさんあります。

古い遊園地も世の中にはたくさんありますが、見方を変えて価値を見出したいい例だと思います。

 観客も舞台装置の一つ、一緒に作り上げる空間

マーケティングで有名な森岡毅さんが率いる刀が主導しているプロジェクトなので、

どのようなコンセプトのもとにリブランディングをしようとしているか、気になりますよね。

「心あたたまる幸福感に包まれる世界」

これが西武園ゆうえんちのリニューアルのコンセプト。

コンセプトや理念をはっきりさせておくと、演出や新しいアトラクションも方向性がはっきりし、キャストたちも判断軸が出来て役割をまっとうしやすくなります。

西武園ゆうえんちでは、「夕日の丘商店街」内で

警察官がパフォーマンスしたり、

八百屋がたたき売りをしたり、

喫茶店の女性が歌ったり、

商店街で次から次へと人だかりが出て、来場者を巻き込んだイベントが繰り広げられていきます。

演者に巻き込まれた人は恥ずかしそうにしている人も多いけど、終わった後にスタッフと一緒に写真を撮っている笑顔は充実感にあふれていて、ああ、この人は楽しかった体験として記憶に刻まれていくんだろうな、と感じました。

自分が巻き込まれるのは嫌ですけどね。笑

 

他の遊園地と比べると商店街の内部でイベントが多数発生するので移動する手間が無いというのも魅力的でした。

 

「なにか楽しそうなことが向こうでやっている」という感じで、
商店街で昔懐かしい食事をしながら滞在しているだけで楽しむことが出来ます。

 

 強力な強みの創出 ゴジラ

凄いです。
これを体験しておけば少なくとも満足して帰ってもらえる、というアトラクションでした。

強力な目玉商品があるとビジネスとしては強いですよね。
平均的なものだけだと印象に残りにくいものです。

 

西武園ゆうえんちは前述のように「心あたたまる幸福感に包まれる世界」をコンセプトにリブランディングを図ったため、入場直後にアトラクショエリアへ突っ走っていくような他の遊園地にありがちな行動をとると、「え、これで終わり??」というような雰囲気になります。

 

遊園地エリアはパッと見では特に凄そうなものはないので
楽しさの上限が読めてしまう、とでもいう感覚でしょうか。

私も朝早く準備させた妻から「これだけ?どうしてくれんの?」とプレッシャーをかけられました(苦笑)

 

ゴジラのアトラクションは他のアトラクションとは段違いに金がかかっており、
最新の技術がふんだんに使われており大迫力でした。

西武園ゆうえんちHPより

ファイナルファンタジーの召喚獣同士の戦いのようでした

 

 

昭和の街並みを疾走するようなストーリーで、
ゴジラのストーリーを覚えていなくても十分に楽しめます。

体験する前まで不満だった妻も、もう1回乗ろうか迷うくらいのコンテンツです。

 金銭感覚を狂わせる現地通貨

園内で使う通貨は西武園通貨(園)に交換しなければいけません。

発音は同じ「えん」なので分かりにくいのですが、園内のスタッフは「30西武園」のように誤認識をしないようにしていました。

金銭感覚を狂わせるレート設定

西武園通貨5400円分=450園と記載があるので1園=12円、1円=0.0833園になります。

事前にチケットを購入するときに西武園通貨がセットになったプランのほうが割安になるため、

ついつい、金額が高いプランを申込みしてしまいます。

料金 | 西武園ゆうえんち
入園するにあたり必要なチケットの料金や販売場所をご案内いたします。

再両替はできないため、園内を出るまでに使い切らなければなりません。

使い切ろうと考えると不必要なものも購入してしまったりするものです。

西武園ゆうえんちのリニューアル計画段階では電子マネーなどを導入してキャッシュレスで楽しめる世界も考えていたらしいですが、
あえてのアナログな紙幣にするのが非常に上手いと感じました。

海外旅行でも再両替するのは面倒だから使い切ってしまおうとする人は多いと思いますが、
お土産屋は大賑わいになります。

あえての「紙幣の西武圓」の導入効果の推察

・海外旅行のように「日本円で〇〇円」という計算が必要になる非日常感
・使い切らなければいけないので財布のひもが緩くなる
・その日の売上の予測が立てやすい

その遊園地でいくら使ってくれるか、顧客単価はある程度は読めるものですが、
事前に通貨を購入する仕組みにすることでその予測精度が向上するはずです。

子供にとっては通貨を換算するのも掛け算の練習になってよかったですし、楽しんで計算していました。

 

地元商店街のアイドル

「心あたたまる幸福感に包まれる世界」をコンセプト

町で触れ合った人たちがテレビ番組の撮影っぽく歌って踊ってを繰り広げてくれるのですが、
身近な人が晴れ舞台に立ったような感覚になります。

AKBが「会いに行けるアイドル」というコンセプトで人気を博しましたが、
もっと距離感の近い、「地元商店街のアイドル」という感覚です。

西武園ゆうえんちHPより

 

商店街ではパフォーマンスごとに町の住人たちもライブの開催の呼びかけをしているので、
そこまで言うなら見に行ってみようかなという気分になり、
いつのまにか応援する気持ちになっていました。

ライブ自体も有名な懐メロ満載で楽しめること間違いなし。

 

 

そしてライブ終了後、帰宅への道につくときに何とも言えない気分になりました。

 

この気持ちは何だろうな、、と考えてみたところ

心あたたまる幸福感

という言葉がしっくりときました。

凄いですね。まさにコンセプト通り。

 

遊園地から帰った後も、商店街で楽しませてくれた住人たちが活躍しているのか、
気になってSNSをチェックしたりするようになってしまいました。

商店街のおばちゃんやおじさんの顔、昔は覚えていた人も多いと思います。

今は利用するのは大手のスーパーで、
商店街の人の顔を覚えることは少なくなってきているのではないでしょうか。

街の人との触れ合いはそのような懐かしさを思い出させてくれます。

街の住人が増えたりしているようなので「また行ってみようかなー」という気にもなりました。

ハード面ではなくソフト面に惹かれたともいえると思います。
世の中はモノであふれていて、インターネットでなんでも簡単に手に入る時代になってきました。

訪日中国人による爆買いが話題になった時期もありましたが、コロナ前の段階で買い物目的よりも、
何を体験するかの「コト消費」が重視されるようになってきました。
「コト消費」でも空間やストーリーを付加することで、より印象付けることが可能になります。
単にホスピタリティの高いスタッフをそろえればよいのではなく、街の住人としての接し方を演じてアドリブにも対応する役者が必要になるので、演劇を志す人の働き口にもなりそうだなと感じました。

 

いままで多くの遊園地に行っていますが
楽しみ方・コンセプトを理解していけば かなり楽しめる遊園地だと思いました。

まだまだパワーアップしそうな雰囲気を感じたので是非行ってみてください!

戦略BASiCSの考え方でこの記事を考え直すのも面白いと思います。

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まとめ

・古さという弱みを強みに変えた西武園ゆうえんち
・心温まる空間というコンセプトを商店街で演出
・文句なしのゴジラのクオリティ
・あえてデジタルでなく紙幣にすることでメリットが生じることもある
・遊園地はハードだけでなくソフト面も大事

 

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