1. はじめに
旅館やホテルなどの宿泊施設を運営するには、「旅館業法」という法律に基づいた営業許可が必要になります。でも、すべての宿泊施設が同じルールで運営されるわけではありません。旅館業法では、施設の特徴に応じて「1. 旅館・ホテル営業」「2. 簡易宿所営業」「3. 下宿営業」の3つのタイプに分けられています。あなたが開業するなら、どの営業形態が適しているでしょうか?
例えば、高級旅館やビジネスホテルのように個室があり、お客様に食事やアメニティを提供する施設は「旅館・ホテル営業」に分類されます。一方で、カプセルホテルやゲストハウスのように、相部屋や共有スペースを利用する施設は「簡易宿所営業」に当たります。そして、学生寮や社員寮のように1か月以上の長期滞在を前提とする施設は「下宿営業」に分類されるんです。
このように、それぞれの宿泊施設によってルールが異なり、許可を取るための基準や運営のポイントも変わってきます。本記事では、
- 旅館・ホテル営業
- 簡易宿所営業
- 下宿営業
の違いをできるだけわかりやすく解説していきます。それぞれのメリット・デメリットや、どんな施設に向いているのかについてもお話しするので、これから宿泊業を始めたい方や、今の施設の運営を見直したい方にとって、少しでも参考になれば嬉しいです!
2. 旅館業法の「3つの営業形態」とは?
旅館業法では、宿泊施設を「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」の3つの形態に分けています。それぞれの特徴を理解し、自分の施設に合った営業形態を選ぶことが大切です。
営業形態 | 定義 | 代表的な施設 |
---|---|---|
旅館・ホテル営業 | 宿泊料を受けて人を施設に宿泊させる営業で 以下のいずれ(簡易宿所営業・下宿営業)にも該当しないもの | 旅館、シティホテル、ビジネスホテル |
簡易宿所営業 | 宿泊場所を多数人で共用する構造や設備を主とした施設に、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業のうち以下(下宿営業)に該当しないもの | ゲストハウス、カプセルホテル、ホステル |
下宿営業 | 1カ月以上の期間を単位とし、宿泊料を受けて人を施設に宿泊させる営業 | 学生寮、社員寮、マンスリーマンション |
それでは、次の章でそれぞれの営業形態について、詳しく見ていきましょう!
参考になる公式情報源
→ 旅館業法の条文が掲載されています。
3. 各営業形態の詳しい解説
① 旅館・ホテル営業:フルサービス型の宿泊施設
旅館・ホテル営業は、もっとも一般的な宿泊施設の形態です。個室が用意され、宿泊客に対して食事やアメニティ、接客サービスを提供するのが特徴です。
主な特徴:
・客室が独立しており、宿泊客はプライベートな空間を確保できる
・食事やアメニティ、清掃などのサービスを提供する
・許可基準が最も厳しく、設備や防火対策が求められる
・床面積基準:客室の床面積は7㎡以上であることが求められる
(地域により異なる場合あり)
※寝台を置く客室の場合は9㎡以上
・玄関帳簿(フロント):宿泊者の氏名や住所を記録する帳簿の設置が義務付けられている
※代替の設備も可能だが自治体により異なるため確認が必要
・部屋数の制限:特に制限はないが、施設の規模に応じた基準が求められる

旅館とホテルはどう違うの?

2018年の旅館業法改正までは和室が主体で客室が5室以上が旅館、様式が主体で客室が10室以上がホテル、と区別されていたけど今は旅館・ホテル営業と統合されたから区別がしにくくなっているよ。

なるほど。たしかにベッドがあるタイプの旅館も最近は多いですね。
そうすると違いはどこにあるの?

旅館はおもてなしのサービス重視で夕食が付いてくることが基本だよ。
ホテルはプライバシーが重視と言われているよ。
② 簡易宿所営業:低コスト&カジュアルな宿泊施設
簡易宿所営業は、相部屋やドミトリー形式で宿泊するタイプの施設を指します。ゲストハウスやカプセルホテルなどが該当し、低価格で宿泊できる点が魅力です。お風呂やトイレ、洗面所などは共用です。近隣に銭湯などがある場合は入浴設備が無くても認められるケースがあります。
主な特徴:
・施設基準が旅館・ホテル営業よりも緩和されている
・設備投資が少なく済み、開業しやすい
・床面積基準:1人あたり3.3㎡以上の床面積が必要
・玄関帳簿:設置義務はないが、一部の自治体では条例で設置を求めている場合がある。
・部屋数の制限:個室ではなく、複数人が利用できるスペースが求められる。4室までの施設や階層式寝台(2段ベッド等)を備えた施設は簡易宿所営業に当たることが多い。

簡易宿所って、玄関帳場を置かなくてもいいの?

そうだよ。旅館業法では義務じゃないんだ。でも、自治体の条例で必要になることもあるね。宿泊者の管理のために設置したほうがいい場合もあるんだ。

なるほど。でも、玄関帳場を共同で使えるって聞いたんだけど?

そう。同じ営業者が複数の宿泊施設を運営する場合や、異なる営業者同士でも条件を満たせば共同玄関帳場が使えるようになったよ。

どんな条件があるの?

緊急時にすぐ対応できることが大事だね。具体的には、通常10分以内に職員が駆けつけられる必要があるよ。

そんなにすぐ駆けつけられないとダメなのね!?

そうだね。あとは、共同で使う場合は宿泊者名簿の管理責任も発生するから、個人情報の取り扱いには注意が必要だよ。あとは旅館業法の改正で、客室数や便所数の規制が緩和されて、複数の簡易宿所で共同玄関帳場を設置できるようになったんだ。

なるほど。自治体の条例を確認しつつ、運営しやすい方法を考えたほうがよさそうね。
③ 下宿営業:長期滞在向けの宿泊施設
下宿営業は、1か月以上の宿泊を前提とした営業形態です。学生寮や社員寮、マンスリーマンションが代表的な施設となります。
主な特徴:
・旅館・ホテル営業とは異なり、短期宿泊者は受け入れない
・食事提供が含まれるケースもある
・床面積基準:1室4.95㎡以上の広さが必要
・玄関帳簿:宿泊者の情報を記録することが求められる
・部屋数の制限:一定の基準を満たせば特に制限なし
4.旅館業法が適用されるその他の施設
1. ラブホテルは旅館業法の適用を受けるのか?
✅ 旅館業法の適用あり(ただし、風営法の規制も受ける)
ラブホテルは、短時間利用(休憩)と宿泊の両方を提供する施設ですが、宿泊(1泊以上の滞在)を提供する場合は旅館業法の適用対象となります。
ただし、風俗営業法(風営法)の規制も関係してくるため、通常のホテルとは異なる運営基準があります。
旅館業法の許可が必要な理由:
- 宿泊者に客室を提供するため
- 1泊以上の滞在が可能であり、宿泊施設としての機能を持つため
風営法との関係:
- ラブホテルは「特定異性接客営業」に分類される場合があり、風営法の規制を受ける
- 風営法の許可を受けている場合、通常のホテル・旅館より厳しい規制がある
2. キャンプ場のコテージ・テントは旅館業法の適用を受けるのか?
🏡 コテージ(固定建物) → 旅館業法の適用あり
⛺ テント持ち込み(野外利用) → 旅館業法の適用なし
キャンプ場には「コテージ(固定施設)」と「持ち込みテント(野外利用)」の2種類がありますが、旅館業法の適用は異なります。
コテージの場合(適用あり)
- 宿泊目的の建物(コテージ、バンガロー)があり、利用者に提供する場合は「簡易宿所営業」または「旅館・ホテル営業」として旅館業法の適用を受ける。
- 基本的には「簡易宿所営業」に該当し、玄関帳簿の設置や消防基準の適用が必要。
テントの場合(適用なし)
- キャンプ場で利用者が自らテントを張る場合は、旅館業法の対象外。
- ただし、管理者がテントを事前に設置し、利用者に貸し出す場合は「簡易宿所営業」に該当する可能性あり。
3. 漫画喫茶・ネットカフェは旅館業法の適用を受けるのか?
✅ 原則として適用なし(ただし、利用実態によっては適用あり)
漫画喫茶やネットカフェは、旅館業法の「宿泊施設」に該当しないため、原則として旅館業法の適用を受けません。
ただし、実質的に「宿泊施設」として運営している場合は、旅館業法の適用を受ける可能性があります。
旅館業法が適用されるケース
- 個室ブースが完全に仕切られており、宿泊を前提とした営業をしている場合
- 受付で宿泊目的の利用を明確に案内している場合
- 利用者が長時間滞在(深夜~早朝まで)し、ベッドや布団に相当する設備が提供されている場合
適用されないケース
- あくまで「休憩目的」であり、宿泊施設としての利用を想定していない
- オープンスペースであり、個室で完全に仕切られていない
💡 近年の動向
一部のネットカフェでは、カプセルホテルに近い完全個室型のブースを設置し、実質的に宿泊施設化しているところもあります。その場合、自治体の判断によって「簡易宿所営業」として旅館業法の適用を受けることがあります。
5. どの営業形態を選べばいいの?
宿泊業を始めたいと考えている方にとって、どの営業形態が自分のビジネスに適しているのかは大きな悩みの一つです。それぞれの営業形態には異なる特徴があるため、自分の目的やターゲット顧客に合ったものを選ぶことが重要です。
① 旅館・ホテル営業が向いている場合
✅ 宿泊客に快適な個室とサービスを提供したい
✅ 観光客やビジネス客をターゲットにしたい
✅ 設備投資や運営コストが確保できる
✅ 長期的なブランド価値を築きたい
おすすめの事業者例
- 高級旅館や温泉宿を開業したい
- ビジネスホテルで安定した収益を目指したい
- シティホテルで観光客向けに展開したい
② 簡易宿所営業が向いている場合
✅ 低コストで宿泊施設を開業したい
✅ 若者やバックパッカー向けの宿を運営したい
✅ 短期間の宿泊者を多く受け入れたい
✅ 相部屋や共用スペースを活用したい
おすすめの事業者例
- ゲストハウスやホステルを開業したい
- カプセルホテルで手軽な宿泊サービスを提供したい
- インバウンド需要を狙ってコストを抑えた宿を運営したい
③ 下宿営業が向いている場合
✅ 長期滞在の宿泊客をターゲットにしたい
✅ 安定した収益を見込める宿を運営したい
✅ 学生や単身赴任者向けの施設を作りたい
✅ 宿泊業よりも住宅的な運営に興味がある
おすすめの事業者例
- 学生寮や社員寮を運営したい
- ウィークリー・マンスリーマンションを経営したい
- 長期滞在型ホテルを展開したい
6. まとめ
宿泊業には、それぞれの特性に応じた営業形態があります。
営業形態 | 向いているビジネスモデル |
旅館・ホテル営業 | 観光・ビジネス向けの宿泊施設を運営したい |
簡易宿所営業 | 低コストで宿泊業を始めたい、若者や外国人観光客をターゲットにしたい |
下宿営業 | 長期滞在者向けに安定した収益を狙いたい |
自分のターゲット顧客や運営スタイルに合わせて、最適な営業形態を選びましょう!